プレス情報
2021年06月11日
プレス情報-甲状腺刺激ホルモン産生下垂体腺腫は左心房拡大を誘発し潜在性心房細動と関連する
当科の大学院生である吉識賢志先生が先日発表した、当院と金沢医科大学の共同研究で甲状腺刺激ホルモン産生下垂体腺腫症例の心機能を解析した研究論文をご紹介いたします。筆者から論文の要旨が届きましたので掲載させていただきます。
甲状腺刺激ホルモン産生下垂体腺腫(TSHoma)は全下垂体腫瘍の1~2%程度を占める極めて稀な疾患です。甲状腺ホルモンの変動に対して甲状腺刺激ホルモンのネガティブフィードバックが働かなくなってしまうため、結果として甲状腺ホルモン亢進状態が誘発されます。甲状腺ホルモン亢進状態は心房細動をはじめとした様々な循環器系合併症を併発するため、周術期管理を困難にする可能性があります。脳神経外科手術前に循環器系の評価を行うことによって、より安全な手術が可能となるのではないかと考えましたが、TSHomaは非常に稀な疾患であるため、実際の循環器系合併症の併発率などは不明のままでした。
今回、我々は過去に当院と金沢医科大学で加療を行ったTSHoma患者様の心エコー所見を用いて、実際の心機能や循環器系合併症の併発率について検討を行いました。
倫理委員会:金沢大学 [No. 2019-299(3310)]、金沢医科大学[No. I-621]
結果、健常者群と比較してTSHoma患者群では左房径が有意に拡大していることを見出しました。左房径は心房細動の発症率と相関が報告されているため、TSHoma患者群では潜在性の心房細動を有している可能性があります。また、実際の甲状腺ホルモン値と左房径には相関がありませんでした。罹患期間などのパラメーターと左房拡大が関連している可能性があるため、TSHomaに対する早期介入により左房拡大の進行を抑制できることが示唆されました。術前に潜在性心房細動を除外するため、TSHoma患者群では術前に心エコー検査およびホルター心電図検査を施行することが有益であると考え、雑誌Pituitaryへ報告しました。
Thyrotropin-secreting pituitary adenomas induce left atrial enlargement with subclinical atrial fibrillation: an echocardiographic study Yoshiki K, Sasagawa Y, et al. Pituitary. 2021
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11102-021-01154-3
本研究に御協力いただいた当院循環器内科、当院内分泌・代謝内科、金沢医科大学脳神経外科の先生方に感謝申し上げます。
この発見がTSH産生下垂体腺腫という病態の理解の向上、ひいては患者様の治療の一助となれば幸いです。
吉識賢志