お知らせ
2020年11月13日
第38回脳腫瘍病理学会ポスター賞受賞!!
当科の博士研究員である淑瑠へムラサビット先生が、今年の9月28日~10月19日にWebで開催された第38回日本脳腫瘍病理学会においてポスター賞を受賞しました。おめでとうございます。
淑瑠へムラサビット先生から発表内容の概要と感想を頂きましたので掲載いたします。
発表内容概要
2020年9月28日~10月19日に開催された第38回日本脳腫瘍病理学会のポスターセッションに「上衣腫におけるチロシンキナーゼEphB受容体/ephrinリガンドの免疫組織化学的検討」という題名でポスター発表させて頂きました。
上衣腫は小児から若年成人の頭蓋内や脊髄に好発する脳腫瘍です。有効な化学療法はなく、開頭手術により全摘出を目指し、残存腫瘍があれば再発予防として放射線治療を行うことが現時点の標準治療となっています。新規治療法の開発のために、上衣腫の生物学的特徴を明らかにする基礎研究が必要です。
Eph受容体は膜貫通型の受容体チロシンキナーゼであり、エフリン(ephrin)と呼ばれる細胞膜に存在するリガンドと結合することによって両方向性の細胞内シグナルを伝達します。EphA (1-10) とEphB (1-6)のサブクラスが同定されており、膠芽腫を含む様々な悪性腫瘍で悪性形質の維持に関与していると報告されていますが、上衣腫について組織検体を用いた検討はなされていません。
今回、上衣腫の手術検体を用いてEphB受容体とそのリガンドであるエフリン(ephrin-B2)について免疫組織学、Western blotによる検討を行いました。
結果、上衣腫Grade IIIにおいてEphB4の高発現がみられたのに対し、他の受容体は低発現していました。上衣腫の悪性度にEphB4, ephrin-B2の高発現とこれに伴うSTAT3シグナルの関与が考えられました。これらの知見は将来,上衣腫における新たな治療法の確立に役立つことが期待されます。
感想
2011年から現在まで10年間毎年脳腫瘍病理学会で口演発表してきました。コロナ禍の中今年は初めてのWeb開催となり、いつもと違う形式となりました。自分自身としてポスターセッションは初めての試みで、得られたデータを如何にして相手に見やすく、理解しやすいポスター作りにするべきか工夫しました。
このような素晴らしい賞を頂けたことに大変喜ばしく思います。脳腫瘍病理は未知の領域が多く、分子診断、オーダーメイド医療に向かっている時代の中においてもやはりHE所見を正しく見極めることがとても大事だと思っています。外科的に摘出された検体を組織の形態学と分子・遺伝子レベルと合わせた総合的な知見が脳腫瘍の確定診断につながり治療に役に立ちます。若い世代へ形態学に興味を持っていただけることを願っています。微力ではありますが、少しでも患者さんの苦痛を楽にしてあげられるように今後も前向きに研究を続けていきたいです。
この賞を頂けたのは皆さんの支えがあったお陰だと思います。この場を借りて、チームワークのためにいつもご指導を頂いている中田教授をはじめ、一緒に働いているスタッフの皆さん、脳腫瘍チームの皆さんに感謝致します。
2020年11月10日 淑瑠へムラサビット