学生・研修医の方

先輩の声

外科系専門コースのロールモデル~専門医獲得まで~

平成26年度卒業の宇野豪洋です。

学生時代には漠然と自分の手で病気を治す事が出来る外科系に興味がありましたが、5年時の実習を経験し、外科系の特に専門性の高い分野へのあこがれを抱くようになりました。開頭手術、血管内手術、内視鏡手術、機能外科、脊髄手術、リハビリテーションと幅広い脳神経分野の奥の深さ、実際に働いている先生方の姿に触れ、翌年の6年時には脳外科を志しました。少しでも早く一人前の脳神経外科になりたいという思いから初期研修は金沢大学の外科系専門プログラムを選択し、脳外科を中心に研修を行いました。医師になりたての3ヶ月はとても戦力と言えるだけの働きはできませんでしたが、金沢大学病院の脳神経外科で研修を行い、医師としての心構えを教わりました。

その後10か月間K病院にて内科・救急を中心に研修し病棟業務の基本、基本手技、救急対応を学びましたが、その内科・救急ローテーション中でも、専門コースを選択した良さを日々感じていました。脳外科の手術の際には毎回声をかけていただき、時間があれば実際に助手として、時には執刀医として手術を経験できました。また、他科の患者さんを担当する際にも、脳外科を意識することで、将来の自分のビジョンを見据えて脳外科診療に生かせる勉強をすることができました。

2年目には再び金沢大学病院にて手術中の麻酔管理、脳神経外科の基本を学びました。大学病院では一般病院では経験できないような困難な症例、稀有な症例が多く、病状を把握するだけでも大変でしたが、それぞれの分野のエキスパートの先生方に教えていただきながら、成長することができました。日常の診療だけではなく、症例報告や学会発表、論文執筆等の指導もしっかりしていただけるので、この点でも大学病院の研修はとても有意義でした。また、根気よくご指導いただけた事で、不出来な私でも初期研修中に経験した症例を症例報告し、英語論文に掲載されました。

3年目には、関連病院のT病院にて、自分にとっては脳外科医として初めて大学病院以外での勤務をしました。大学病院での生活とはがらりと変わり、外来診療・病棟業務に加え、手術・血管撮影・リハビリ計画、さらに日中・夜間の救急対応と充実した日々を送りました。3年目からいち脳外科医の扱いを受け、主治医として責任を持ち患者を受け持つようになるのも専門医コースの特権なのではないかと思います。自分の判断が患者の予後に直結するため、時には責任の重圧に押しつぶされそうになる事もありますが、苦難を乗り越えてきた経験は今でも財産になっています。またT病院での経験で最も大きかったものは、やはり手術だと思います。T病院に勤務して約1年で、50例以上の手術を“執刀”しました。脳外科の印象を尋ねると多くの学生さんは、“脳外科医は1人前になるまでに10年以上かかり、その間はろくに手術もできない”と答えます。例にもれず、もちろん自分もそう思っていました。しかし、実際に働いてみると、それが全く違っていたことがわかりました。まず、脳外科の手術には術者に合った様々な段階の手術がたくさんあります。研修医のうちに執刀を経験できる慢性硬膜下血腫の洗浄術から始まり、脳室-腹腔短絡術・外傷手術、そして脳腫瘍摘出術や脳動脈瘤頚部クリッピング術など分野・難易度もバリエーションに富んでいます。自分がどの段階にいても可能な手術があり、またステップアップすることで、いつまでも成長を実感できるというのは、脳外科のかなりの魅力であると感じています。

また、忙しくて全く自分の時間が取れないのではないかと思ってしまいますが、実際には、ほとんど夕食の時間には家に帰る事ができ家族の時間を過ごす時間や、同僚やコメディカルの人と飲みに行くことも多くとても充実した日々を過ごす事ができました。

4年目からは大学院での研究がスタートしました。私の選択した研究テーマは、数値流体力学 (CFD: computational flow dynamics)を用いて臨床応用可能な知見を得る事でした。患者の血管撮影やMRI、3D-CTAのデータから作成した血管モデルを用いて様々な流体力学的解析を行いました。研究期間で得た結果をまとめ、英語論文を執筆し現在論文投稿中です。私の場合研究に専念する期間は約2年半ありその間一旦、臨床からは離れることにはなりましたが、研究・論文作成を行うことでさらに自分の人生の幅を広げることができるようになったと感じています。科学的な視点から日常の診療の疑問点を考え、研究する事ができ、とても貴重な経験が出来たと思います。

7年目の現在は大学病院で臨床に専念し、日々自己研鑽に励んでいます。大学院卒業後は脳外科専門医資格を取得し、更なるステップアップを目指す予定です。専門コースを希望したことで、順調に脳外科としてステップアップしてこられたように思います。これまでの経験や知識だけでなく、研修生活で感じた初心を忘れずに、日々成長しながら脳外科診療を行っていきたいと思います。