教授からのメッセージ
脳は神秘の臓器です。まだまだ分からないことがたくさんあります。そして脳は大変美しい臓器です。生きたヒトの脳に直接アプローチし、患部を自身の手で根治させることができるのは脳神経外科医だけです。医学部学生の方々と話をすると、「私は手が器用でないから脳神経外科医にはなれません。」という方が多いのですが、脳神経外科は、精緻な手の動きを必要とする手術はありますが、必ずしも特別手先が器用である必要はありません。脳そして脳の病気に関心があり、脳の病気を治したい人、新たな挑戦をしたい人は脳神経外科医の適性があります。脳神経外科医は命を直接扱う診療科ですので、責任は重く感じますがやりがいがあります。人の命を大切に思い、医師の仕事にやりがいを求める人にも脳神経外科医の適性があるでしょう。
今後日本はさらなる高齢化社会に向かい、脳疾患の頻度が増加しますので脳神経外科医の需要はますます大きくなります。厚生労働省の資料でも今後ますます必要となる医師として脳神経外科医が挙げられています。是非多くの学生、研修医の皆さんが脳神経外科医を目指して欲しいと思います。
われわれの教室は若き脳神経外科医の育成に全力で取り組んでいます。それは社会の要請であり我々の最優先の責務と考えています。
脳神経外科学とは
脳神経外科学は脳の総合科学です。脳神経外科の診療は問診、神経学的所見をとることから始まり、CT、MRI、脳血管撮影画像を緻密に読影し、いかに治療を行うかを考え、さらに治療を完結させるには手術前後の全身管理が重要となります。また患者さんの年齢層は新生児から高齢者に至るまで、すべての年齢層に対応します。脳疾患は緊急処置が必要なものも多く、救急の現場でも活躍できます。研修医の皆さんには救急医療における脳神経外科医は実に頼もしく映るでしょう。したがって外科的知識に加え、内科的知識や救急医療・画像診断・神経病理の知識が必要なことからも脳神経外科学は非常に幅広い総合科学といえます。
脳神経外科学はまた、脳腫瘍、脳血管障害、頭部外傷、脊椎・脊髄疾患、先天奇形、機能的疾患(三叉神経痛、顔面けいれん、パーキンソン病、振戦)など多岐にわたる疾患を扱います。このように守備範囲の広い脳神経外科学では、幅広い診断・治療技術やこれに伴う論理的思考が身に付きます。
脳は人間としての知的、精神的高次機能を担う極めて重要な臓器ですので、病的な状態では目に見える様々な症状を呈します。重篤な神経症状を呈した患者さんでも治療により症状を完全に消失させたり、死に瀕した患者さんを社会復帰させることができたりするなど患者さんの状態が治療により劇的に変化する事もあります。患者さんやご家族から大変感謝されやりがいのある診療科です。
現在、脳神経外科診療における治療方法は従来の手術顕微鏡を使用した開頭手術のみではなく、脳血管内手術、神経内視鏡手術が発展し、すべての治療法に一人の脳神経外科医が習熟できる時代ではなくなりました。脳神経外科専門医の中には脊椎・脊髄疾患を専門にする医師や救急医療・集中治療に関心が高く救急部・ICUで力を発揮する医師、リハビリ医に転向して勤務する医師、先天奇形など小児の脳疾患を専門に扱う医師がいます。これからの脳神経外科医のサブスペシャリティーの選択肢はますます広がっていくでしょう。また、脳神経外科医は外科医療をしなくとも頭痛、めまい、認知症、てんかん、脳ドックについても深い見識を有しているため社会的需要度が高く、医師として長く社会に必要とされます。
今何に興味があるのか分からない方でも、入局後に自分の興味のあること、得意分野が必ず見つかります。われわれの教室は広く全国から見学、研修を受け入れています。ご希望の方は、金沢大学脳神経外科(kns◎med.kanazawa-u.ac.jp ※◎を@に変換してください。)までご連絡ください。
21世紀は『脳』の時代。神秘なる臓器である脳の外科的治療に挑戦してみませんか。
金沢大学脳神経外科学教室の特徴
脳神経外科の専門医資格を得るためには、卒後臨床研修2年の後、研修プログラムで通算4年以上所定の研修が必要です。この間少なくとも3年以上脳神経外科臨床に専従し、卒後・カリキュラム委員会が定める脳神経外科疾患の管理・手術経験の目標を満たすことが必須です。研修プログラム(病院群)は年間500例以上の手術症例を有し、医師数・設備・指導体制等の基準を満たした基幹施設・連携施設・関連施設で構成されます。
金沢大学は北陸に数多くの関連病院を有するため、教育力溢れる様々な指導医のもとで幅広い脳神経外科臨床研修が行えます。開業医を含めると55施設が関連病院としてあります。大学には教官が多く充実しているため、様々な専門領域の指導医から教育を受けることができます。きっと自身のサブスペシャリティーを持つための幅広い研修ができるでしょう。また、大学では稀な脳神経外科疾患を含めて、多彩な症例を数多く経験することができるため、短期間で臨床能力の向上が図れます。臨床研究・基礎研究も活発に行っており、研究設備も整っているため、研究に興味がある方にも充分満足できます。成果は必ず英語論文を作成して世の中に公表します。英語論文の作成は誰もが最初からできるわけではありません。論文作成法をしっかり教育しています。
また、女性医師の育成にも力を入れたいと考えています。医師としての仕事を継続させつつ、女性の生き方をサポートできる教室でありたいと思います。
国際貢献を目的として世界からの留学生を多く受け入れています。留学生は基礎研究を行い論文化して学位を取得します。余裕のある留学生は臨床修練許可書を得て臨床に参加することができます。4年間の留学の後には自国に戻り、所属先において金沢で得た知識を生かして、いずれは大きな花を咲かせて欲しいと願っています。現在(2020年7月)は国内留学生1名、海外からの留学生6名が研究に従事しています。
教室のモットー
当教室のモットーは「一緒に働ける縁を大切にして、100年後も輝ける仕事をしよう」です。縁は実に不思議なものです。人との出会いには必ず意味があると思います。人は一人では生きていけません。多くの人と出会って成長していけるのです。一期一会の精神で周囲の皆さんに感謝の念を忘れず、成長を続けて欲しいと思います。
また100年後も輝ける仕事とは新たな診断法や治療法を見出し、未来の医療に貢献するための仕事をするということです。そのためには日々の臨床から疑問点を抽出し、それを解決するための方法を考え研究することが必要です。目先だけではなく未来も見据えていきたいと考えています。
そして、目標は「北陸を脳神経外科医療最先端地域にし、脳神経外科疾患に対する医療については世界一優れた医療圏にする。」ことです。今日の患者さんのために全力を尽くして診療にあたり、明日の患者さんのために全力を尽くして教育・研究していく教室でありたいと思っています。また、仕事は患者さんの役に立つのはもちろんのこと、自分自身の成長にも繋げていってほしいと思います。
私は人の幸せは、ものやお金ではないと考えています。人の究極の幸福感は人に愛されること、人にほめられること、人の役に立つこと、そして、人から必要とされることから得られます。後者3つの幸せは働くことによって得られます。教室の先生方には「人の役に立つ→人に感謝される→自分自身が幸せになる」というサイクルがあることを伝えています。大学での診療、教育、研究にもあてはまるサイクルです。このサイクルを回すたった一つのコツは「あきらめない」ことです。そして一旦回ったサイクルを止めないためには「頭にのらない」ことと「努力を怠らない」ことが重要です。この3つの「ない」を心掛けて仕事して欲しいと思います。
そして、脳神経外科に関する診療・研究で、教室員には夢を持ってもらいたいと考えています。その夢を実現するため、全力でサポートすることが私のミッションです。皆の夢が描ける教室にしたいと思っています。
教室の方針
当教室では特に教育に力を注いでいます。カンファレンスで予期せぬ質問が飛んでくるでしょう。答えられなくて恥ずかしい思いをするかもしれません。しかし、その時に得た知識は一生忘れません。もちろん、医学部学生の多くは脳神経外科医にはなりません。ただ、脳神経外科疾患を疑う知識をしっかり身に付けて、脳神経外科疾患を見逃すことのない医師になってもらいたいと思います。
また、脳神経外科医を志望する多くの方は脳神経外科手術に関心があると思います。患者さんに決して害のない範囲で、できるだけ早い段階で手術手技を習得させるよう心がけています。指導医が横に付き添ってしっかり指導します。