対象疾患と治療
悪性脳腫瘍に対する集学的治療
悪性脳腫瘍の患者さんの多くは大学病院で治療を受けることになります。それは悪性脳腫瘍を扱う専門医師が大学に多く勤務し、治療機器、技術がそろっているからです。悪性脳腫瘍と告知された方は、ご家族と共に絶望感に打ちひしがれるでしょう。確かに以前の悪性脳腫瘍の治療成績は惨憺たるものでした。しかし、悪性脳腫瘍の治療はこの15年間の間に大きく進歩しました。手術治療、化学療法、放射線治療、新規治療の各治療分野で保険適応となる新しい技術が導入され治療成績も向上しました。長期間普通に生活されている方も少なからずいらっしゃいます。ですから病気と向き合い安心して治療を受けていただきたいと考えています。われわれは適切な治療を組み立て全力でサポートします。
長らく、悪性脳腫瘍治療の第一目的は生存期間の延長でしたが、昨今は長くなった生存期間をいかに良い状態に保つことができるかに関心が集まっています。生活の質(Quality of life; QOL)を保つには,運動・感覚・言語機能といった日常生活に不可欠な機能のみならず、社会生活に重要な役割を果たす高次脳機能の温存が重要であると考えます。
手術方法としては覚醒下手術、電気生理学的モニタリングが脳機能の温存に有用です。われわれの施設では積極的に覚醒下手術を行っています(当院は覚醒下脳手術認定施設です)。手術中に目を覚まして、脳への直接電気刺激をしながら様々な検査を受ける手術は術後の後遺症が少なく、病変摘出率が高いことが明らかとなっています。当院は全国では5本の指に入る経験数で、特にその人がその人らしく“よりよく生きてもらう”ために必要な高次脳機能を温存させる覚醒下手術を行っている数少ない施設の一つです。最近では石川県以外からの患者さんも増えています。
化学療法としてテモゾロミド、ベバシズマブはそれぞれ抗腫瘍効果と抗浮腫効果により脳機能維持のために有用です。ベバシズマブをどのタイミングで使用するかは施設によって異なります。
高齢者では放射線治療後に認知機能障害を来たしやすく、できるだけ少ない線量で短期間のうちに終了する方法が推奨されます。また、NovoTTF(在宅電場療法、オプチューン®)は細胞増殖を阻害する新規治療法であり,腫瘍以外の脳にダメージを与えないため脳機能維持を期待できることから、当院でも積極的に導入しています。
われわれはこれらの治療方法を個人の病態に応じて最善の選択をもとに駆使し、良好な治療成績を得ています。また、臨床試験を行う施設でもあり最新の治療を選択できる場合もあります。