金沢大学脳神経外科

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対象疾患と治療

悪性脳腫瘍に対する集学的治療

脳腫瘍にも様々な種類がありますが、脳実質から発生するグリオーマ(神経膠腫―しんけいこうしゅ―)の中で最も悪性度の高いグリオブラストーマ(膠芽腫―こうがしゅ―)をいかに克服するかは、脳神経外科医・脳腫瘍研究者の大きな課題の1つと言えます。膠芽腫は、人体に発生する腫瘍の中でも最難治腫瘍の1つであり、あらゆる治療を駆使しても診断からの平均予後は1.5年ほどで、残念ながらこの30年ほど大きな改善はありません。

その理由の1つは、グリオーマが持つ、浸潤性に増殖する(正常脳に滲み込むように増殖)という特徴にあります。細胞が浸潤しているであろう周囲正常脳を含めて大きく摘出するのが理想ですが、実際は肉眼的に区別することは困難です。

また、他の臓器とは異なり、脳は運動・感覚・言語・記憶・思考など重要な機能を有しており、これらを無視して摘出することはできません。グリオーマの手術には、これらの重要な機能に配慮しながら、可能な限り最大に摘出するという難しさが付きまといます。

私たちは、この最難治である神経膠芽腫を始めとした様々な悪性脳腫瘍に対し、集学的治療を行い治療成績の更なる向上を目指しています。

神経膠芽腫に対する当科の治療

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摘出術

機能温存ならびに最大限の摘出のため、術中に以下のモニタリングを行います。

ナビゲーションシステム

摘出している場所がリアルタイムに分かります。重要な神経線維の走行があらかじめ予測できるため、安全に手術ができます。

運動誘発電位(MEP)、感覚誘発電位(SEP)

運動感覚線維に近い場所で使用します。危険な場合は波形が減少し、神経線維の損傷を未然に防げます。

5-ALA蛍光染色

術前に5-ALA(アミノレブリン酸)を内服すると、腫瘍が光って見えます。
これにより、肉眼では識別困難な腫瘍境界が分かるようになります。

覚醒下腫瘍摘出術

覚醒下手術については項を変えて説明いたしますが、悪性神経膠腫でも適応のある症例には行っています。

術後放射線化学療法

悪性脳腫瘍に対して術後治療、とりわけ化学療法は不可欠です。

テモゾロミド(テモダール®)

膠芽腫の標準的治療に使用されている、内服の抗がん剤です。
放射線治療と併用し、放射線治療終了後も外来で4週に1回のペースで内服を継続します。

ベバシズマブ(アバスチン®)

消化器系がん等ではすでに標準的に使用されてきた点滴の抗がん剤です。
2013年より悪性神経膠腫に対して保険適応になりました。当科では再発膠芽腫に対して使用しており、症例によっては劇的に効果があります。

写真左:再発時(アバスチン使用前)
写真右:アバスチン投与後

アバスチン投与により、腫瘍と周囲脳浮腫の大幅な改善を認め、症状も著明に改善しました。

MRI画像:
上段 T1 造影(腫瘍が白く染まる)、
下段 FLAIR(腫瘍・浮腫が白く見える)

 

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臨床研究・治験
網羅的タンパク質解析(プロテオミクス)

悪性脳腫瘍の治療成績を改善させる究極の方法は無症状の状態での“早期発見”です。
一般の検診で血液検査により消化器がんや前立腺がんが見つかる場合がありますが、それらのがんでは腫瘍マーカーが血中に存在し、血液検査で容易にがんを発見できます。
悪性脳腫瘍を早期発見できた場合、外科的にほぼ病変を取り去ることが可能となるかもしれません。そこで私たちは腫瘍のみならず髄液・血液に対しても、たんぱく質を網羅的に調べる技術(プロテオミクス)を用い、膠芽腫の早期発見、悪性脳腫瘍の病勢評価に有用なマーカーの確立を目指しています。

症例に応じた分子標的療法

前述のように、悪性グリオーマは手術で完全に摘出することは困難であり、術後放射線化学療法が必須です。しかし、神経膠芽腫の治療成績がこの30年ほとんど改善しておらず、とりわけ新たな化学療法の確立が急務になっています。
私たちは、手術により摘出した悪性脳腫瘍を分子生物学的手法を駆使し、DNA、RNA、およびタンパクのレベルで解析(プロテオミクス)を行い、個々の腫瘍に特徴的な因子の発現を調べます。これらの結果に基づき、個々の腫瘍により効果的と考えられる分子標的薬を用いたテイラーメイド治療の確立を目指しています。

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臨床試験

当科では生体内に存在し糖代謝に関係する酵素であるグリコーゲンシンターゼ3β (GSK3β)が悪性グリオーマの形質に重要な役割を果たすことを発見しました。GSK3βを阻害すると腫瘍細胞の増殖のみでなく浸潤が強力に抑制されることを突き止めています。
またGSK3β阻害剤と従来の標準治療薬であるテモゾロミドとの併用により悪性グリオーマ細胞の増殖が著しく抑えられることを明らかにしています。これらの基礎実験結果をもとに、再発悪性グリオーマに対してテモゾロミドとGSK3β阻害作用を有する4種類の医薬品(GSKカクテル)を併用で投与する第I/II相臨床試験を2009年1月に開始しています。
この「GSK3β阻害作用を有する薬剤を使用した悪性グリオーマの化学療法」と題する臨床研究は手術摘出検体からGSK3βの活性を認めた方に対し腫瘍再発時にGSK3β阻害作用を有する既存の薬剤を投与するものです。これまでに7例に施行しましたが、再発後もテモゾロミドを継続した従来群と比較して、大幅に生存期間が延長しました。

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