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2019年07月26日
第40回 日本脳神経外科コングレス総会 会長挨拶

第40回日本脳神経外科コングレス総会
会長 中田 光俊

img_greeting 第40回日本脳神経外科コングレス総会は2020年8月9日(日)~12日(水)に金沢市・石川県立音楽堂他にて開催させていただきます。本会は、脳神経外科医の生涯教育を目的とし、脳神経外科領域全般を同一の会場にてオムニバス形式で学ぶ唯一無二の学会です。本会の最大の利点は、脳神経外科領域の最新の知識を短期間で一気に習得することができることです。会員の先生方にとりまして有意義な会にするべく、この趣旨を踏襲し、効率的に、効果的に、最先端を学べるような学会にしたいと思います。

 第40回の主題は「未開拓の知」とさせていただきました。脳神経外科領域は1980年のコングレス創設から本会に至る過程の中で、尊い先人が未開拓の脳神経外科領域を開拓者として耕し、整地し、多くのサブスペシャリティに区画整理されました。それぞれの領域には滔々と水が引き込まれるかの如く、日進月歩の技術革新がもたらされ多くの知見が生み出され、進歩が叶い多くの実がなっています。今後もさらに、それぞれの領域が我々の想像を超える形で発展するものと思います。そのような中で、自身のサブスペシャリティ領域以外の修得がどうしても疎かになり、他領域の先端を理解することが難しくなった現状があります。本会はそんな会員の先生方それぞれにとって「未開拓の知」が詰まっている学会にしたいと考えました。

 ポスターは日本人の子供をモデルとしました。子供は「好奇心に満ちた将来ある」脳神経外科医の象徴です。眼の中に浮かぶカラフルな脳は「細分化され様々な側面をもった」脳神経外科医療、また「学際色豊かな学問としての」脳神経外科学を表しています。視線が上の方に向いているのは、脳神経外科がまだまだ発展し続ける領域であることを表しています。

 背景をモノトーンにしたのは、初見で目にクローズアップする効果に加え、脳神経外科医療はこれまでの歴史の中で根治可能となった疾患(明)と、未解決の難治性疾患(暗)を抱えている領域であることを比喩しています。また、我々脳神経外科医は未解決課題に対してたゆみない努力を続け、解決法を探る責務を負っているという峻厳な現実を示しています。

 本会は節目となる第40回の総会になります。記念講演として第4回の会長を務められた菊池晴彦先生に特別講演をご快諾いただきました。菊池先生は日本に手術顕微鏡を導入され、「顕微鏡手術の知」を広められました。座長には第14回会長を務められた吉本高志先生にお願いいたしました。菊池先生からは日本における手術顕微鏡導入の歴史を紐解きながら、現代の脳神経外科医への熱いメッセージをいただけると思います。

 本会の根幹をなすプレナリーセッションは指名による発表で構成されます。各領域から次世代エースにご登壇いただきたいと考え、講演者を決めました。結果、45演題中24演題でコングレス初登壇の演者となりました。講演者にとりましては、コングレスの大会場での講演は大変緊張すると思います。しかし、必ず自身のキャリアにとって有用で貴重な経験となりますので、十分に準備していただき奮闘を期待しています。

 海外特別講演としてAVMの分類で有名なProf. Robert Spetzlerをお招きしました。私は2002年10月から2007年3月まで4年半にわたり、米国アリゾナ州フェニックスで留学生活を送りました。その地で脳神経外科医療の中心を担うBarrow Neurological Institute(バロー脳研究所)の所長がProf. Spetzlerでした。脳神経外科医であれば誰もが知っている先生で、日本でもお知り合いの先生が多いと思います。Prof. Spetzlerは未開拓の脳神経外科医療に勇猛果敢に挑戦し「現在の脳神経外科医療の知」を築かれた伝説の脳神経外科医であると同時に、周囲の誰もが慕う良き教育者です。これまでの足跡を振り返り、現在のそしてこれからの脳神経外科医に伝えたいことを言葉にされる予定です。

 文化講演は立川志の輔師匠にお願いいたしました。NHKの「ためしてガッテン」の司会を20年以上務め、医学知識も豊富で当代随一の落語家です。富山県のご出身で、同郷の私は以前より親近感を持ってご活躍を眺めておりました。日本で江戸時代より現在まで伝承されている伝統的話芸「落語」。しかし、多くの先生方には落語は未開拓領域であると思います。日本固有の文化である落語はまさに「未開拓の知」であろうと思いました。落語はまた一方で、師匠と弟子の徒弟制、プロフェッショナリズムなど脳神経外科の世界とも共通しています。その文化や考え方を是非多くの先生方に知っていただきたいと思います。

 2020年の米国脳神経外科コングレス(CNS)総会会長はミシガン州デトロイトにあるHenry Ford Cancer InstituteのProf. Steven Kalkanisです。脳腫瘍専門で米国脳神経外科の若きリーダーです。昨年サンフランシスコでのCNSにおいて、日本と米国のコングレスとの関係はより強固にし、今後協力的に発展を目指す方針を打ち出しました。このことから、Kalkanis会長だけでなく、Scientific Program Chair のProf. Brian V. Nahedも来日され、講演とセミナーを担当されます。

 また、今回の総会の特徴として下記7つの取り組みがあります。
① 明確な聴講対象設定
多くの先生方にとりまして、日常の繁忙の中で全日程参加できる方は少ないと思います。専攻医の知セミナー・ハンズオン・ビデオ教育セミナーで構成される初日は専攻医と若手専門医、プレナリーセッション・特別企画・海外特別講演・文化講演で構成される2, 3日目は専門医・指導医を聴講対象と設定します。最終日の日曜日には開業医の先生方や一般の脳神経外科外来を担う先生方にもお役に立てる脳神経外科医療のcommon diseaseとされる外傷、虚血など一般臨床の最新知識を含めたプレナリーセッションを組みました。
② 学会主催モーニングセミナー
第38回総会から新専門医制度の領域講習単位取得のため、モーニングセミナーの聴講者が多くなっております。例年は企業主催が主体でしたが、学会主催で14のセミナーを設定し、脳神経外科治療におけるM&M(Morbidity&Mortality)に焦点を当てました。プレナリーセッションでは十分に得ることができなかった「未開拓の知」を比較的長い時間のご講演から学び取ることができるようにいたしました。
③ ビデオ教育セミナーの3D high vision化
初日の「3Dビデオ教育セミナー」を大阪国際会議場メインホールにて臨場感あふれる3D high visionで聴講いただきます。昨今の画像技術の進歩や顕微鏡手術から鏡視下手術への移行により、手術教育もより効果的で分かりやすいものに変化しています。エクスパートによる手術をよりリアルに体感してもらい、脳神経外科手術手技を学んでいただきたいと思います。
④ 専攻医のためのセミナーの充実化
初日の「専攻医の知セミナー」には脳神経外科医にとって必須の臨床上の知識のみならず、キャリアディベロップメントに関わる講演を含めました。日本の脳神経外科医が世界のリーダーになるにはプレゼンテーション能力、研究能力、国際的なコミュニケーション能力が必要だと考えます。若手脳神経外科医の中から世界に羽ばたく開拓者が出てきて欲しいと願っています。
⑤ 講演のe-learning配信
全発表をビデオ撮影いたします。座長とコングレス委員でweb視聴演題を選択し、後日e-learningとしてコングレスwebsite(https://www.jcns-online.jp/)から視聴できるようにします。聴き逃してしまった、あるいは再聴講したい講演をいつでも視聴することができます。
⑥ コングレス運営委員の可視化
コングレス総会のプログラム立案にはコングレス運営委員を主要メンバーとするプログラム委員が貢献しています。委員を務める全国の先生方の写真をプログラム集に掲載することにしました。顔が見えることで委員と参加者の親近感が増す学会になればと思います。
⑦ 開会の挨拶の初日への移行と2日目の会長講演
コングレス全体の構成として、第37回総会から初日のプレコングレスセミナーも会期に含めることになり、4日間全体が会期となっています。これまで開会式は2日目の朝となっておりましたが、第40回では初日に開会の挨拶を行い、2日目に開会式として15分間の会長講演をさせていただきます。

第40回記念企画に相応しいプログラムが予定されましたこと、関係各位の方々に深く感謝申し上げます。会員の先生方には是非本会で自身の未開拓の地を耕し多くの実りある知を得て、日常の診療・研究・教育にお役立ていただきたいと願っております。多くの会員の先生方のご参会を何卒よろしくお願い申し上げます。